あおむしさんのお部屋

アゲハ幼虫、特にナミアゲハ五齢幼虫について


アゲハとその幼虫
あおむし歴
アゲハの一生
かわいい五齢幼虫
フィギュアが欲しい



アゲハとその幼虫

「アゲハチョウ科」は昔「鳳蝶科」と呼ばれていたそうです。
「鳳」とは、中国の伝説の鳥「鳳凰」の「鳳」です。大変美しい鳥とされる鳳凰によく似た蝶ということで、「鳳蝶科」と名付けられたそうです。ただし、この頁で紹介するのは主に、その美しい蝶になる前の段階、あおむし時代のアゲハです。

「アゲハチョウ科」に属する種は、世界で約600種もあるそうですが、日本でもっともポピュラーなのは、やはり「ナミアゲハ」でしょうか。あの、黄色地に黒い模様を持つ蝶は、ほとんどの人がご存知だと思います。単に「アゲハ」と呼ぶ場合も、これを指しますね。私も、(
で述べる通りクロアゲハやナガサキアゲハの飼育歴もありますが――これらは幼虫時代はなかなかナミアゲハと区別がつきません――、)やはり一番多くお付き合いしているのはナミアゲハですので、この頁でも、単に「アゲハ」とするときはナミアゲハを指すと思ってください。

ナミアゲハは、日本各地に分布しています。形態は春型と夏型で異なり、春型のほうが小型でカラフルです。春型には黄色と黒の模様の他に赤い斑点も入っており、華やかです。
しかし! 成虫もきれいだが幼虫もかわいい。いや、幼虫こそかわいい、と主張します。世間では、逆に、「成虫は綺麗やけど青虫は気持ち悪うて……」という向きが多いようですが、一度アゲハの幼虫さんを飼ってみれば、きっとそのかわいさが分かるはずと信じます。
そんなわけで以下、アゲハの幼虫さんの魅力を語ろうと思います。



あおむし歴

その前に、自分の幼虫歴を記しておきます。
実は、今は熱く幼虫愛を語っている私も、かつては、理科の教科書や図鑑で見るのも耐えられないほどの幼虫恐怖症でした。コドモの頃は平気だったのですが、どういうわけか思春期に入ると、虫全般がすっかりダメになってしまったのです。

そんなときに、当時小学生だった妹が、理科の観察課題としてあおむしたちを家に連れ帰ってきたのでした。これは一大事です。幼虫たちが収納されたプチトマトのパックには極力近づかないようにし、幼虫と戯れる妹を目にする度に鳥肌を立てていたのでした。
だがこのままでは妹にナメられる! もともとあんまりない姉の威厳に危機を感じ、或る日思い切って幼虫さんの背に触れてみました。すると、意外にもさらりと触感。びくびくしつつもちょっと強く押してみると、ぷにゅぷにゅとやわらかく、なかなか可愛らしい気がしないでもありません。

その後、こわごわながら幼虫さんと触れ合ううちに、幼虫さんもこちらに懐いてくれ(たと少なくとも私は思い込み)、そうなるとやはりかわいく思えてくるもので、数週間も経つと、腕や肩を這わせたり顔に乗っけたりしても平気になりました。


ほっぺたに乗る幼虫さん
(クロアゲハ幼虫・ヌラ子)

それからは妹そっちのけで、春になると幼虫を捕獲し彼らと戯れる日々が始まったのでした。(注:ちなみに妹はその後、思春期に入り虫を恐がり始めました...。)



アゲハの一生

たまご時代

アゲハの卵は直径1mmの球形で、きれいな黄色をしています。幼虫の食草である、カラタチやミカンなどの柑橘系の葉に産みつけられます。孵化が近づくに連れて、黒っぽく変色してゆきます。黒くなったら、もうじき孵化だよというしるしです。

1〜4齢幼虫

卵から出てきたばかりの幼虫の色は黒です。これからあの緑色の「あおむし」になるまでに3回脱皮をしますが、この期間を1〜4齢と呼びます。1齢幼虫は、小さなゴマ粒のようで、気をつけて見ないと虫だとは分かりません。2齢幼虫になると、黒い体に白い模様が出来、ちょうど鳥のフンのような形態に擬態します。


鳥のフンに似せかけています。
大きさは1cmほど。3齢くらいでしょうか。

2〜4齢幼虫の見分けは、頭部の幅でできるそうですが、シロウトには難しいです。
さて、4齢幼虫の黒白の皮膚が張ってその下に、うっすら緑色が透けてきたなら、最後の脱皮の前夜です。

5齢幼虫(あおむし)

4齢幼虫が黒い皮を脱ぎ捨てると、いよいよ5齢幼虫期の幕開けです。そう、緑に青緑の模様が入っているやつ、いわゆる「あおむし」です。この段階は、アゲハ人生(蝶生)において、最もラブリーな時代ではないでしょうか。
まず、脱皮後の疲れ果てたご様子がなんともかわいらしい! 色は黄緑色ぽくてやはらかく、新しい皮が余り気味で少々たふたふしているのも、平安ことばで云いますといみじうらうたしと云った風情ですが、1日も経つとあざやかな真緑に変色し、皮も張って堂々たるあおむしになります。

脱皮して2、3日目の5齢幼虫。
まだ少し頼りなげですが、体の色は濃い緑です。

この時期の幼虫はほんとうによく食べるので、家飼いの場合、数日はえさとりが大変です。また、なぜか「ふん遊び」に興じる幼虫もいます。(自分のふんをつかんで投げる行為を勝手にこう呼んでいますが、実際遊んでいるだけなのか何か意味があるのかは不明です。)

前蛹状態〜蛹化

五齢幼虫になってから10日ほど経つと、幼虫は宿便とよばれる水分の多いふんを出します。これは「蛹になるでー」というサインで、早ければその日のうちに蛹になる場所を探しはじめます。
困ったことに、納得行く場所を見つけるのは難しいらしく、この時期によく「脱走」が起こります。うちの幼虫さんたちもしばしば、いつの間にかケージからいなくなっており、気付くと机の裏やそのへんの壁など困った場所で蛹になったりしていました。
お気に入りの場所が見つかると、1日程そこでじっとして体を固定し、蛹になる準備をします。この状態を前蛹状態といい、完全に蛹化するのは、私の見た限りでは夕方か夜が多いようです。
蝶の蛹には、糸を帯のように体に巻いて体を支える「帯蛹」と、腹の先の鉤でしずく状にぶらさがる「垂蛹」があります。垂蛹には、オオゴマダラの黄金蛹をはじめ綺麗なものが多いようですが、アゲハは帯蛹です。蛹になってしまうと、幼虫時代のようなコミュニケイションは取れないので寂しいのですが、えさをやらずにすむのでラクにはなります。あとは羽化を待つばかりです。
聞いたところによると、蛹の期間、彼らは一旦中でどろどろに溶け、成虫としての体を作り直すのだろうで、なんと不可思議です。蛹になるとは一体どんな気持ちなのでしょう。彼らは「さあ、そろそろさなぎにでもなるか」と思うて蛹になるのでしょうか。

成虫

蛹の時期は約10日〜2週間。この期間が無事に過ぎれば、晴れてうつくしいアゲハ蝶が生まれます。羽化するのは午前中が多く、羽化前には、蛹の中の羽根の模様が透けて見えています。
私などは「かわいいのは幼虫の間、蛹になったらもうあかん」とか言うてるロリコンですが、やはり「これがあの蝶になる!」という前提があるからこそ、幼虫の魅力も倍増するのでしょう。
さて、我が家では成虫になると飼えないので逃がしてしまいます。蝶は、しばらく家の中をふらふら飛んで、飛び馴れるとお外へ旅立ってゆきます。このような、途中まで育てて「あとはまあ元気でやってくれ」という飼い方は、私のように責任感の持続しない人間にはぴったりです。……というだけでなく、最期を見ずに済むので涙もろい方にもぴったりだと思うのですが、どうでしょう。(ただし、
別のところで述べるように、幼虫のうちに死んでしまうことももちろんありますが。)

アゲハたちは、外に飛び立つ前に、名残を惜しむかのように、しばらく頭や指にとまっていってくれます。幼虫時代に一緒に遊んだことを覚えてくれているに違いない、と勝手に思いこんでいます。


髪にとまる成虫さん




可愛い五齢幼虫

では、最もラブリーな時期である五齢幼虫のかわいさを、五感で解説します。

視覚

まずかわいらしいのがそのずんぐりした形態です。
おなかには腹足、おしりには尻足がついており、これを器用に使って至るところにくっついて、もそもそうごきます。先っちょ(頭部)についた小さなおててで、葉っぱを持って一生懸命食べる姿がけなげです。
実際は、このおててに見えるものが本物の脚で、腹足・尻足はニセモノの脚なのですが。それが証拠に、おててに見えるものはちゃんと6本、昆虫の脚の数だけあります。


おてて(六本脚)と腹&尻脚を駆使して枝にはりつくご様子


背中には眼状紋と呼ばれる模様があります。くりくりした目のようなこれのおかげで愛敬がありますが、実はこれは、天敵を威嚇するための模様だそうです。たまに、眼状紋がほんものの目だと思っている人もいます。「ポケモン」の「キャタピー」というキャラクタでも、眼状紋が目であるかのように描かれていますね。ですが、ほんものの目はちゃんと頭部にあります。こちらは「複眼」という6個の眼で、ぱっと見にはそれと分からない小ささです。

キャタピーさん


本物のおめめ(複眼)はこのへん

聴覚

部屋を静かにして、幼虫の入っているケースに耳をちかづけると、「シャリシャリ」という音がきこえます。これは、幼虫さんが葉っぱをかじっている音です。小さな音ですが、この音をきくと、こんなちいさなあおむしさんたちも生きているのね……と感慨を覚えます。

嗅覚

幼虫たちは草食ですので、草の匂いがします。ナミアゲハならたいてい、食草である柑橘系の植物の匂いがするでしょう。
ですが、んー、いい匂い、と鼻を近づけた途端、「肉角」を出されることもあります。
肉角とは、普段は頭部と胸部の間に収納されているツノで、ナミアゲハの場合はオレンジ色の触覚のような形をしています。敵が近づいてくるといやな匂いを発して撃退するためのものです。上の「キャタピー」の図にもこれが描かれていますね。
試しに幼虫さんの頭部をつんつん突ついてみれば、人馴れしてない幼虫さんであれば、上体を反り返らせながら肉角を伸ばし、臭気を発して威嚇してくるでしょう。が、これも、馴れるとなかなかいい匂いだと思うのですが...。

触覚

幼虫の皮膚は意外とすべすべしており、頬ずりすると心地よいです。軽く背中を押してみるときの、ぷにゅぷにゅした感触も好きです。(このときの「やめてよぉ〜」という感じで身をよじる動作もまた可愛く。)
私は幼虫さんと仲良くなってくると、腕などを這わせてコミュニケイションをとりますが、このときは脚がもぞもぞと動くのがくすぐったくてうれしいです。ただ、糸(自分の体を固定するためのもの)を出しながら這うので、糸がひっかかってちょっと痛くもあります。

味覚

これは未経験です……。
参考文献?:
『虫を食べる人びと』(三橋淳 著、平凡社)



フィギュアが欲しい

おまけ画像:
「京都市青少年科学センター」内「チョウの家」で、学習用に使われていた幼虫さんのフィギュアです。
ちゃんと、あおむし時代と黒時代の2パターンがあります。大きさは50cmくらいでした(でかっ)。



棚に収納されて並ぶ幼虫さん


細かいところまできちんと再現されていて可愛い……。フィギュア文化花咲く日本で、しかしあおむしさんフィギュアは此処以外ではまだお目にかかったことがありません。あおむしファンとしては、いつか手に入れたいものです。






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