追憶のいきものたち

短い間ともに過ごした者たちの思ひ出



アマガエルのアマ子
オタマジャクシのタマ子
ナマズの人麻呂
ハエ



アマガエルのアマ子(1995〜1997)

アマ子は、小学生だった妹が、じゃんけんに勝ってクラスのペットを貰い受けたものです。私は「芳雄」と名付けたのですが、貰ってきた本人が「アマ子」と呼んでいたのでそちらに従いましょう。

アマ子の飼育生活の中で何よりも印象に残っているのは、なんといってもエサ採りです。
アマ子のエサは、ハエでした。一日一匹はハエを捕らねばなりません。アマ子と暮らした期間中、我々は、ハエが発生すると狂喜し、夕方になると虫取り網を持ってハエ捕獲に出かけるという、異様な一家になってしまいました。ハエを求めて辺りをうろうろ徘徊していると、「あっちにハエがいたよ!」と近所の子供に教えられたりもしました。

アマ子は一見したところ弱々しい痩せガエルでしたが、ケージにハエを入れてやると、鋭い目付きで睨み始め、近くに飛んで来た瞬間に、まさしく目にも止まらぬ速さで「シュルッ!」と舌を使って捕らえぺろりと呑み込んでしまいます。
その、陰険なような、人生を悟りきったかのような目付きがなんとも言えず、幾度となくハエにあわれみをかんじたものでした。

アマ子の背中はつやのあるグリーンで、なかなかの美ガエルでしたが、冬眠の時期が来ると寂しい反面「しばらくハエ採らんでええんや〜」とほっとしました。
そんなアマ子ですが、3回目の冬眠中に亡くなってしまいました。この年は暖冬だったため、冬眠中に誤って何度か起き出した気配があり、そのための衰弱死かと思われます。冬眠というのは実は、いきものにとって、ものすごくエネルギの要ることだそうです。しかし、アマ子がいなくなったその後も、我々はハエを見るたび「アマ子にやらねば!」と思ってしまうようになっていたのでした。



オタマジャクシのタマ子(1995)

かつて、鴨川の出町柳付近(いわゆる「デルタ」)で、魚などを放流し子供たちがそれを捕まえる、というイヴェントがあり、わたくしもこのイヴェントを好んでいました。
或る年、子供達に混じってバケツ片手に乗り込んだわたくしがゲットしたものは、2匹のオタマジャクシでした。これらは例の如く、母によって「タマ子」と命名されました。

タマ子(たち)は、灰色がかった薄茶色に、こげ茶色の斑点があり、頭が大きめで、図鑑を見るとトノサマガエルのオタマジャクシに似ていましたが、他にも「これかな?」と思うものが幾つかあり、タマ子(たち)がどんな蛙になるかは成長してからのおたのしみ、ということになりました。

しかしデリケートなオタマジャクシに我々の飼い方は合わなかったのでしょうか、タマ子たちは変態する前に命尽きてしまい、結局なんの幼生だったのか分からず仕舞です。あのままオトナになっていたら、どんな蛙になっていたのかな……。


在りし日のタマ子(たち)


ところでオタマジャクシといえば、以前山中で、タピオカのようにオタマジャクシがぎっしり詰まった池を見て大変に興奮したことがあります。ちっちゃな脚が生えたものもおり、とてもかわいかったのです。あれ以来、オタマジャクシ風呂に入ってタマ子たちと存分に戯れるのが密かな夢になっています。



ナマズの人麻呂(1996)

同じく鴨川の放流イヴェントで、タマ子の翌年、ナマズをゲットしました。
たぶん、放流されたものではなく、もともと川に住んでいたものだと思うのですが...。
泥濘の中に居たのを3匹つかまえ、1匹は我が家が、あと2匹はそれぞれ親戚の家が引き取りました。詳しい種類などは分かりませんが、ナマズ!と言われてイメージするような大きなナマズではなく、20センチほどの小型のナマズでした。

当初は「ナマズがうちに来た」ということが嬉しく、友人、知人、果ては通信教育の添削者(注:当時私は受験生だった)にまで自慢しまくりましたが、浮かれるあまり名前を付け忘れていたことに、一週間後気付きました。ほうっておくと、また例によって「ナマ子」にされてしまうので、「人麻呂」というなまえをあたえました。

人麻呂は、小型だけにバケツの底でゆったりととぐろを巻く様子もかわいく見え、わたくしは人麻呂を眺めては、「いやあ、心が安らぐね」「地震も予知してくれるかな」などと勝手なことを言うておったのですが、泥の中から急に水道水に移したのがよくなかったのか、人麻呂は程なくして急死してしまいました。我が家にいたのは結局3週間ほどでした。
親戚宅に託した2匹のナマズの成長に期待しましたが、彼らもそれぞれ人麻呂死後1週間以内に後を追い、以来ナマズは飼っておりません。



ハエ(1998)

これは別に飼っているわけではありませんが、自宅にて大量発生したという事件があり、なかなか忘れ難い記憶です。
おそらく屋根裏で孵ったものと思われますが、朝起きると電気の周りに何十匹ものハエが群がっている! 掃除機を武器に彼らと格闘すること約30分、やっとの思いで片づけて別の部屋へ行くと、そこにも無数のハエが……!
この日、我が家の掃除機は、のべ155匹のハエを吸い込み、掃除機の中はハエだらけになりました。またこの時、「アマ子が生きてればなあ!」と誰もが思ったことは、言うまでもありません。






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