ξ タニシのお部屋(1997-1998)ξ

たった一匹のタニシがまさかあんなことに...


ξ 「タニシ」とは?
ξ タニシ大繁殖
ξ タニシの愛で方・飼い方
ξ タニシのその後
ξ タニシメモ



ξ「タニシ」とは? ξ

タニシ。
誰でも知っているタニシ。誰でも見たことあるであろうタニシ。このタニシ!とか罵倒語に使われたりもするタニシ。
しかし、タニシに詳しい人は余り見ない。かく言う私も、タニシが我が家にやってきて初めて、タニシに就いての無知に気付いた次第でありました。

タニシ(田螺)とは、腹足類タニシ科の総称です。腹足類とは軟体動物門の一綱で、「腹足」というとおり、腹面を足として動くもの。この種類は螺旋状の貝殻を持っていることが多く、なかまには、カタツムリ・ナメクジ・サザエ・アワビ・ウミウシ...などがいます。
日本に棲息するタニシは、オオタニシ・マルタニシ・ナガタニシ・ヒメタニシの4種で、このうち最もポピュラーなのは、ヒメタニシです。小型で日本各地で見られます。我が家に来たのもおそらくこのヒメタニシと思われます。以下単に「タニシ」と表記する場合は、ヒメタニシを指すと思ってください。

さて、我が家にファースト・タニシがやってきたのは、1997年・夏のことでした。 当時小学生であった妹が夏休みの観察日記のため、池でメダカを2匹捕えてきた際、メダカの餌の水草に、大きめのタニシが1匹くっついていたのでした。 たかがタニシ。たかが1匹だけ。 この時点では、あくまでも水槽のメインはメダカでした。われわれは、「ほお、タニシもいるわい」となんとなく眺めているだけでした。それがまさかあんなことになるとは予想だにしなかったのです………。



ξ タニシ大繁殖 ξ

数週間後のある日のこと、何げなくメダカの水槽をのぞくと、水槽の壁面にゼリー状のものがいくつか付着していました。
「???」
よく見ますとそのゼリー状のものの中には、1ミリにも満たない小さなつぶつぶが詰まっています。メダカの卵かと思いましたが、小学校の理科の時間に育てたメダカの卵はこんな形状ではありませんでした。ということは……「タニシの子!」。
われわれが驚いている間にも、タニシは延々と子タニシを産み続けました。翌日も、その翌日も繁殖は続き、そのタニシはわれわれに、「生殖タニシ」というありがたいのかありがたくないのかよく分からない名称で呼ばれ始めました。

当然そんなことは一向に意に介さず、日々繁殖に励んだ結果、1週間もすると壁面のゼリー状物質は10個〜20個にも増えました。1つのゼリーの中に約20個ほどのつぶつぶがあったので、少なくとも20×10=200匹の子を生んだことになります。
つぶつぶの数がそれくらいに達したころ、初期に生まれたつぶつぶたちは、ゼリーを抜け出し思うままに動きはじめました。この頃にはつぶつぶは最早ただのつぶつぶでなく、ちゃんと小さなタニシの形をしています。これがなんともかわいく、親タニシとは違って殻部分が透明で、小さく動いています。

残念ながらこれらが全員おとなのタニシに育ったわけでなく、密度効果などでいくらか減ってしまいました。(また、詳細は省略しますが、我が家の姉妹喧嘩の犠牲となり命を落としたタニシもいました...。)それでも多数はたくましく生き延び、親タニシよりは若干小さくあるものの、立派なタニシ型に育っていきました。

さて、このタニシ。たった1匹でやってきて1匹からこれだけ殖えたものですから、われわれはタニシは単為生殖であると思い込んでしまいました。
しかし、調べてみたところ、どうやらタニシは雌雄異体とのことでした。するとうちのタニシは、我が家にやってくるまえからお腹に子を持っていたのでしょうか。あんなにたくさんの子が腹に入っていたとは恐れ入ります。
wikipediaによりますと、「交尾によって体内受精し、卵が子貝になるまで体内で保護する卵胎生で、十分育った稚貝を数個から十数個産み出す」とのことです。卵を産む生物(ニワトリとか)を卵生、幼体が生まれる生物(人間とか)を胎生といいますが、卵胎生はその中間のような形態です。タニシはこの卵胎生で、卵が母体中で発育・孵化し、幼体が直接生み出されるというわけです。我が家に来てしばらくは、体内で卵が育っている期間であったのでしょう。
それにしても、個人的事情を申しますと、当時持っていた思春期らしい単為生殖幻想をタニシに託していた私としては、タニシが両性生殖の動物であったということは少なからずショックでした(のちに、
ライトンの交尾を目撃した際にこれと同様のショックを受けました。君たちには性別などないと思うておったのにそんなことしないでくれ...)。
なお、タニシは、交尾時間が長いことで有名だそうです。うちのタニシにも仲良しの旦那さんがいたのでしょうか。旦那さんも一緒に連れてきてあげればよかったです。(まあ交尾時間が長いからといって必ず仲良しであるとは限らないわけですが。)



ξ タニシの愛で方・飼い方 ξ

タニシは単調でつまらん生き物のように思えますが、実は、一日中見ていても飽きない愛らしい生き物です。
可愛いポイントを紹介しますと、まず、うごきです。
見るからにのんびりとした風情のタニシですが、意外にすばやくうごきます。お腹を横に向け、すぃ〜と泳いでゆく御様子は涼しげで、その、すぃ〜のフォームのまま水槽中を縦横無尽に動き回ります。壁面に張り付いての移動の際も、おなか側から観察してみるとかなりかわいいです。
次に、おくちがかわいいのです。普通に眺めているだけでは、タニシの口など何処に存在するのかさえ分かりませんが、上述のようにおなか側から観察すると、それらしき小さな赤い部分が見える筈です。えさを投入してやると、その小さな部分をぱくぱくさせながら上昇してきます。このときの一生懸命な様子もかなりかわいく、ついつい、いつまでもエサをやり続けてしまいます。

さて、ここまでお読みくだすって「タニシを飼いたい!」とお思いになった方(そんな人がいるのか知らんが)のために、ここでタニシの飼い方を伝授いたします。
と言えればよいのですが、私もそもそも「タニシを飼いたい!」と思って飼い始めたわけではなく、気付けばなんとなくタニシと一緒にいたわけで、タニシの正しい(?)飼い方はよく分かりません。
エサも、メダカのエサのおこぼれしかやったことがありません。あとは、水中の微生物をテキトーに食べていたようです。ものの本によると、「えさ不足の場合は殻の中身が縮み、カルシウムのみ不足の場合は殻がちぢんで中身がでてくる」とありましたが、こうした現象は観察できませんでしたので、それで足りていたのではないかと思います。

タニシは水中をきれいにするので、水槽のお掃除係として、他の生き物のいる水槽に入れておく人もいますね。水族館などでも、よく、お掃除用に雇われたタニシを見かけます。
ただ、困った話として、お掃除用に数匹入れたタニシが繁殖しすぎてしまった!という話もあります。上記のようにたいした繁殖力ですから、熱帯魚のためのものだったはずの水槽がいつの間にかタニシ一族に乗っ取られてしまった、ということも。お掃除用にタニシを飼われる方はお気をつけください。まあ、私なら嬉しいのですが。



ξ タニシのその後 ξ

さて、繁殖し続けたタニシのその後です。
彼らは半年ほどで曾孫か玄孫の代になりました。先住民・メダカもいつの間にか姿を消し、すっかり世はタニシの栄華です。やがて、壁面はゼリー状のつぶつぶだらけで、中の様子が窺えないほどになってしまいました。最盛期は、2〜3000匹はいたのではと思われます。(なお、水槽は、両手でなら抱えられる程度の大きさのものでした。)

しかし、一年も経つと、タニシたちの繁殖は停滞しました。急激に数が減り始め、水槽の底に中身のない貝殻たちが累積するという悲劇(注:死ぬと体が縮んでしまうようです)。あんなにパワフルに子を産み続けていたファースト・タニシの姿も何処かに消えてしまいました。
理由は不明ですが、おそらく殖やし過ぎたがゆえの密度効果(=密度が高まったせいで食糧や環境の理由から淘汰される個体が出てくること)によるものではないかと思います。或る程度の数になった時点で、複数の水槽に分けるべきだったのでしょう。 それでもあれだけたくさんいたタニシが全滅することはなく、最後に残った者たちを、近くの池か川に放しに行き、私のタニシ生活は終わったのでした。




ξ タニシメモ ξ

★いい話
下記のサイトで知ったお話ですが、秋田県の或る寺院が火災にあったとき、タニシが観音像に貼りついて消失を防いだ、という伝説があるそうです。観音様にびっしり貼りつく健気なタニシの姿を思うと、うちの水槽に貼りついてうごうごしていた無数のタニシたちが思い出され、しみじみします。この寺院では火除けのお守りとして、タニシ絵入りのお札が出されているそうです。旅行の際には立ち寄ってみたいものです。

詳しくはこちら→
「雄湯郷幻視行」さん

★おいしい話
さんざんタニシのかわいさを語っておいてナンですが、タニシは食用にもなります。田舎育ちの祖父は子供の頃よくタニシを食べたそうです。祖父に、タニシの味を訊いてみました。

祖父:「タニシ? 美味しいで! サザエみたいなもんや。でも小さすぎるな。まあ、そんな美味しいちゅうほどのもんでもないわ」。
結局、おいしいのかおいしくないのかよう分かりませんでした。






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