虫 * 夢 * 年 * 表




1987年頃


擬態

水泳の帰り道、熊野寮の横の、斜面になっている草地をよじ登ってみる。雑草が伸び放題である。

掌を着くと、湿ったような感触がする。
おや?と手元を見ると、草の色であると思っていた緑色は、草でなく、蛙の背中ではないか! 草地だと思った斜面全体が、夥しい蛙から成っているのであった。

蛙群から成った斜面は、もぞもぞと蠢動する。気味悪くなり始める。一刻も早く下に降りたい。しかし、斜面が蠢くので安定が図れず、うまく降りることができない。



1989年頃


巨ナメ

夜の高速道路SA。
自販機で、チーズバーガーか何かを買おうとする。
その自販機のディスプレイには、白い巨大なナメクジが横たわっており、不気味である。出てきた商品を取ろうとすると、取り出し口にもナメクジが潜んでおり、手を入れられない。
夜露で湿ったテントの天井に大きなナメクジが貼り付いていて寝付けない。



1991年頃


天ぷら!お前だ!

戦争が始まり、食糧難が到来する。
一家七人、障子の枠木を解体して食べるも、それもじきに尽きてしまった。

三十三間堂あたりに闇市がある。仕方なくそこへ行くと、芋虫の天ぷらを売っている。買うと、油の染みた茶色い紙袋いっぱいに入れてくれた。しばらくこれで食いつなごう…。

皆で卓袱台を囲み、皿に盛った芋虫天ぷらを貪り食う。ところが、芋虫天ぷらを食べていたつもりが、いつのまにか、自分の指の天ぷらになっている。嫌だがやむをえずそのまま指天ぷらを貪り食う。指がなくなるとピアノが弾けなくなるかなあ。



1993年


十四歳

平均台の上を、平衡取りながら歩いている。どこまで続くか見えない、長い長い平均台である。
平均台の幅は狭く、幾度もバランスを崩しそうになる。平均台の置かれている部屋の幅も非常に狭いので、バランスを崩すたび、部屋の壁に触れてしまいそうになる。
ところが、その部屋の壁には無数のナメクジが付着しているのである。バランスを崩すと、そいつらに触れてしまうことになる。
冷や汗が出始める。しかし平均台は狭すぎて、ターンして引き返すこともできない。



1995年


みうごき

湯船に浸かっていると、自分の身体の周りに、泡風呂のように、小さな泡がいくつもつぶつぶと沸き上がってくる。よく見るとそれらは泡ではなく、小さな芋虫であった。身体を動かすとそいつらに触れてしまう。湯船の中で、身動きとれなくなってしまう。その間にも、芋虫は大量に沸いてくる。耐えかねて湯船から洗い場へ出ようと決意すると、洗い場にもいつのまにか巨大な虫が控えましましている。全長50cmほどもある巨大な白い芋虫だ。それは更にどんどん肥大化してゆく。湯船から出るに出られず、そうして立ち往生している間にも、湯船の芋虫は相変わらず増殖しつづけ、洗い場の芋虫は肥大買いしつづけ、最早どうすることもできず、湯船の中で身体を固くするしかない。



ロマンス

自宅のトイレの中にいて、そこから出ることができない。地震が起きたらしいから。外では、建物が崩壊し濁流の走る音が聞こえる。
トイレの天井には、全長1mほどのナメクジが貼り付いている。個室は狭く、もしそいつが落ちてきたら、避けることは不可能だ。
いつ落ちてくるかと気が気でない。気絶しそうになる。



1996年


ぼたりぼたり

暗い山中をひとり、山奥へと歩いている。

辛うじて一本道があるものの、手入れされておらぬ木々が生い茂り、突き出た枝々に邪魔されて歩きづらいことこのうえない。
ふと、それらの枝葉から、何かがぽつぽつと落ちてくるのに気付く。
見るとナメクジどもである。

引き返そう、と後ろを振り返ると、いま来た道には、既に落ちたナメクジたちがいくつかの大きな山をなしている。そのせいで最早道はなく、引き返すこともできない。しかもその山は次第に増大してこちらへ迫ってくるのである。

ぼたぼた落ちてくるナメクジの数は、進むに連れて確実に増えてくる。しかし前へ進むほかどうしようもない。
ナメ山に追われ必死に前へ走っていると、遠くのほうに、白く光った山小屋が見えた。助かった!と小屋に近づくと、なんと! その小屋が白く光って見えたのは、屋根や壁の一面に、一分の隙なく白いナメクジやカブトムシの幼虫がはりついているからだ!ということが判る。
それでも引き返す道は既に失われ、その虫小屋へ向かって進むしかない。



1997年


宇治

白いパンに蛆虫がたくさんたかっている。その横に、川が流れている。たぶん、源氏物語の宇治十帖の舞台になった場所だ。



1998年


情報発信

夢の中で夢を見ている。
「お腹の上を2匹のカタツムリが這っている。ひんやりして、気持ち悪い。足元でパリッという音がするので見ると、足元には、自分に踏まれたと思しきカタツムリがたくさん、潰れて海を成している。そうしている間に、腹のカタツムリが喉元まで上ってきている。あまりの気持ち悪さに失神したところで、目が覚める」

という夢である。
(夢の中の)夢が覚めたところで、Aさんに電話をかけ、(夢の中の)夢の話をし、
「あの感触は体験しないと分からないよ、あなたも腹にカタツムリを這わせなさいよ」
としつこく訴えるが、敢え無く拒否され、
「しかたない、インターネットでも使って、大衆に訴えるしかないか」
と思う。



1999年


デエト

賀茂川の土手を、誰だか分からない男の人と歩いてる。わたしたちは、アオムシを散歩させている。ちょうど犬を散歩させるような具合に。
高野あたりの川べりで、草の上に座り込む。膝元に寝そべったら、そのひとの人差指がアオムシになって頬を這い、大変幸福な気分になった。


*知人が見た夢*

君と一緒に、アスファルトの上で跳ねているなにか黒いものを箸でつかんで食べていた。見ると、それはナメクジだった。気持ち悪かった。


2000年


喫茶ノワール

誰かと連れ立ってD町のあたりを歩いてる。連れは、30歳前後の男性。一緒にいてリラックスできる人であるようだ。
坂を降りていくと、「ノワール」という喫茶店がある。こんなところにこんなお店があったんだ。「ここにしましょう」と中に入る。

席に着いて店内を見回す。ホステスのような女性客や、勤務中のサラリーマンらしき客。落ち着くお店だな。今度ひとりでも来よう。
黒い皮表紙のメニューを開く。甘くてやわらかそうなデザートの写真。値段も安いし、カロリイも低い、まさに理想的な食べ物だ。泡立った抹茶味の飲み物も欲しい。
「どれも美味しそうですね」と言いつつもとりあえずデザートを注文した。

しばらくすると、ウェイトレスが品を運んできた。
しかし、注文したものと違う!
調理された白い芋虫が皿の上にこんもりと盛られている。これは芋虫料理じゃないか! 他にも、ミミズ料理、青虫料理なども一緒に運ばれてきた。こちらは連れが注文したらしい。
とりあえずそれらを食べることにする。虫料理を前にして、われわれはいくらかはしゃぎ気味であった。


三途

川の中を歩いて向こう岸に渡ろうとしている。川の中には、いろいろないやなものが浮かんでいる。異様に長々しいミミズであるとか、魚や虫の死骸であるとか。それらをなるべく見ないようにして進む。
向こう岸に渡り着くと、低木が茂っている。茂みに入っていくと、それらの木には、巨大な芋虫や毛虫が大量に付着しているのが見えた。



過失

近所に住む奥さんが、うちにペットを預けに来る。
ペットは、カメと、ナメクジ二匹である。
ナメクジは、ナメクジと呼ばれてはいるが、肥大した金魚のようないきもので、結構かわいい。

だが、預かっている間にそれらは死んでしまった。
カメの水槽に父が水を入れたところ、カメが溶けてしまったのだ。
庭に墓を作って埋めることにする。ナメクジの死骸の上に土が不器用に盛られている。雨が降り始め、墓はじゅくじゅくと濡れている。その様子がなんとも気持ち悪い。

しばらくして、雨の中、奥さんがペットを引き取りにくる。
奥さんは、なぜか大胆なデザインの白い水着を着ている。
ペットが死んだことを告げると、奥さんは、
「あのカメは深海の水でしか生きられなくて、水道水では溶けてしまうんです」と言う。「でも、あらかじめそのことを言っておかなかったのは、こちらが悪いんです」。
こっちに責任はないことになったので、少しほっとする。奥さんもわれわれを責めない。しかしどうも、心の中では、われわれに責任があると思っているふうである。


萌え

店から出たところのカラタチの木に、ナミアゲハの幼虫が4匹いる。そのうち3匹が五齢幼虫、1匹が四齢幼虫だった。それぞれ、カラタチの葉に、つつまれるようにして乗っている。五齢幼虫は脱皮したてらしく、ややたふたふと余った皮が、あざやかな黄緑色ですべすべとうつくしい。古語の「らうたし」という表現がぴったりであるなあと思う。



2001年


*知人が見た夢*

君がうちの家にやってきて料理を作ってくれた。でも、できあがって食べようとしたら、「なんやこれは!」、皿に、ナナフシとか、虫ばかりの料理が盛られてて、とても食べれんかった。



2003年


雨が上がったあと、庭にナメクジがたまっている。
最初は4匹、壁についているのが見えただけだったが、ずっと見ていると、更にたくさんいることが分かった。

妹が縁側から足を滑らせ、庭に落ちる。
庭にいたナメクジが、妹の服にも付いたっぽい。
わたしが布団の中で寝ていると、妹が裸足で部屋に入ってきて、そのまま布団に上がり込もうとする。
「布団にナメクジがつくやん、足洗ってから来てよ」
と叫ぶが、妹は、聞こえないのか聞こえないふりをしているのか、そのまま上がって来ようとする。



2004年


中継

インターネットで、アゲハの幼虫の様子を中継している。
茶の間の卓袱台にノートPCを置いて、家族で見ている。
実は、虫かごは卓袱台に置いてあるのだが、それをPCを通じて見ているのである。

中継サイトから中継ウインドウを開く際に、いちいち一旦アダルトサイトを経由せねばならず、不愉快である。母が興味津々で覗き込む。アダルトサイトは、黒字に赤っぽい文字でタイトルが書かれており、その周囲にやはり赤い色で、男女を示す記号「♂」「♀」がちりばめられている。

虫は、けっこう大きな五齢幼虫。死んだみみちゃんと違って元気なので安心。たくさん食べてたくさんフンを出している。

一匹だけかと思ったら、もう一匹いたので少し驚く。
大きさは同じくらいだが、色が若干違う。透明感があり、羽化したてのセミの羽のような色。感動的に綺麗だ。
幼虫は元気に動き回る。下半身を枝に固定したまま上体を振ってみたり、心配になるくらいよく動く。下半身をぷるぷる揺すってフンをたくさん落とす。たくさん食べたのだなあと感心する。
虫かごの底に、水を2センチくらい張っていたのが、もうかなりにごっている。カラタチが枯れないように水を多めに入れておいたのだが、掃除が面倒だ。それに、虫が水に落ちたら大変だ。

美術館の展示室のような暗い部屋で、前立腺癌について話す。



2005年


英会話

英会話教室に通っている。
講師は、がっしりとした髭の男と、華奢でボーイッシュな金髪の女性。彼らには出生の秘密があるらしい。
日本語が使えないので、上手く意志疎通できずいらいらするが、知ってる単語を駆使して、なんとか話す。
「Small & weak insect!!」


2006年


悪い虫がつく

鏡の中に、メチルなんとかいう毒薬の製法に関する情報が映っている。
気が付くと、幼い頃に戻っており、子供時代に住んでいた家の近所で遊んでいる。妹たちと、寺の壁の周りをぐるぐる走り回っている。今よりいくらか若い頃の父が立っている。

雨が降ったらしく、地面は水浸しだ。
突然妹が大声をあげた。
「ぎゃー! 恐い!!」

例の毒薬のことだろうと思ったら、そうではなく、寺の壁に、虫がびっしりと付着していたのだった。カタツムリやナメクジ。さっき壁にもたれてしまったからわたしの背中にも付いてるかも……どうしよう。
考えないようにして再び遊び始める、地面にもカタツムリやナメクジがいっぱいいることに気付いてしまう。
思わず父の足にしがみつき、
「背中にナメクジ付いてへん?」
と尋ねる。父は、付いていると言って、背中のナメクジをとってくれる。

服の中にもナメクジが入っている気がする。取りたいが、怖い。ひとりで風呂に入って服の中からナメクジが出てきたらいやだ。
一緒に風呂に入ってくれるよう、父に頼む。母が、「お父さんとお風呂なんて久しぶりやな」とにやにやする。着替えの下着を用意する。が、よく考えたら今は生理中なので、生理用ショーツでなくてはならない。「ちょっと待って」と生理用ショーツを探しに行く。高校の、古典の先生が家庭訪問に来るらしい。


反復

神社の前を、自転車で走っている。頭上に桜の葉があり、葉には黒いしみがある。おそらく、虫だと思うので、見たくない。
横を走っていた母が、「ナメクジが服の中に入った!」とうっとうしそうに言う。そういえば以前にも、桜の葉からナメクジが落ちてきて衣服に入ったことがあったように思う。
「いやー、はよ取りーな」と言うが、見たくないので目をそらす。母は紫のセーターを着ている。あれ、これ、あたしの服やん。
あッ、この夢は前にも見た、3回目だ!と思う。はんぷくきょーはくってやつか。学校行ってこの話をしよう、と思う。研究室に着いた。S藤氏の本が、ちくまで文庫化されるらしい。2冊の単行本をひとつにまとめるんだとか。どれとどれを併せるのがよいだろう、これまでの単行本は全部で6冊あるんだっけ……と考える。





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