三章・ 布ナプ篇






布ナプキンというものが一部で推奨されているらしい、ということはかすかに聞き知っていたが、余り興味がなかった。
布ナプキンとは、紙製でなく布製の生理用ナプキンを指す。現在、おそらく、日本の女性の多くは、紙製のものを使用していると思われる。紙ナプキンはその登場時に較べ、さまざまな技術によって飛躍的に性能(吸収力など)が上がったというし、何よりも使い捨てられる点が便利である。が、何度も洗って使える布ナプキンの方が環境にやさしいのでないか、またケミカルな紙ナプに比べ人体にもやさしいのでないか、というわけである。

環境にやさしく。えころじー。なちゅらる。おーがにっく。自然派。
……というタアムとともに語られる布ナプに、どうもわたしは魅力を感じられなかったのであった。
別に えころじー 云々が嫌だ、というわけでなく、折角便利な紙ナプでがしがし動き回れる時代になったというのに布回帰だなんて、無理して「自然」をやらんでもいいではないか。環境のため自己犠牲的に不便に耐えんでもいいではないか。それになー、自然とかいうたかて、綿花から自分で育ててるんならともかく、シフォン主義社会下で価格つけて売られてるわけで、ロハスとかいうたかてあんた、布ナプもお金がないと買えへんやん?とぶつぶつ思っていたのであった。

以上のような、「ロハス」的なものに対する疑念は基本的に今も変わらないのであるが、しかし、知人が、「紙より快適!」と言うのを聞いて、ちょっと心動かされ、布ナプを試用することにしてみた。
彼女の言うには、「布ナプを使い始めてから生理痛がラクになった」。生理痛の原因の一端は、ケミカルな成分が多用された紙ナプにもあるのでないかというのである。また、更に興味を惹かれたのは、彼女が、「布ナプを使ってから経血を汚いものと感じなくなった」と言ったことであった。これにはかなり心を動かされた。
布ナプ使用をためらう理由の一つには、「洗濯がいやだ」ということもあった。紙ナプならぺっと剥がしてきゅっとくるんでろくろく見もせず捨てられるが、布ナプなら付着した血液を独りこしこし洗わねばならない。なんかそれって前時代的な暗いイメージではないか。
子供の頃、祖母から、「生理の血で汚れた下着を洗うときは、水の神様に謝りながら洗うんえ」とかなんとか聞かされ、衝撃を受けたことがある。アタマでは、そんなの女性差別的だわっ、と思うていても、以来、やはり経血とは不浄なものとして感じられてきたのであったし、できれば触れたくないものであった。それが(どういった理由でかは知らないが)汚く感じられなくなるというのなら、布ナプちょっと試してみたい。
更に彼女の言うには、「布ナプ洗濯時の浸け置き水は肥料になり、それだけでお花を咲かせることもできる」とのことであった。不浄な廃出物の筈のものが、お花を咲かせる役に立つなんて。まア、役に立つから良い、とは言いたくないのだが、赤い水がお花を咲かせるその美しいイメージは、(つげ義春の「紅い花」のように、)これまでの経血=不浄イメージを塗り替えてくれるものであった。
そんなに認識が変わるのであれば、一度使ってみるのも悪くなかろう。

さて、ファースト布ナプは、ネットショップで購入した、ピンク地に綺麗な模様入りのもの。他にも可愛いデザインのものが色々あり、フルーツ柄のものなども買った。デザインが可愛いというのはなかなか重要なことであって、装着が単に煩わしいだけの紙ナプに比べ、おニュウのお洋服に袖通すときのようなうきうき感がある(実際、それを購入してしばらく、出血が待ち遠しかった)。
1セット(フォルダ1枚+吸収パッド2枚)で1000円。若干高い気もするが、手作りであるし、何度も洗って使うことを考えると、そんなものかもしれない。
防水仕様のフォルダを、ショーツにマジックテープで固定し、それに、同柄の吸収パッドを挟み込む。フォルダは防水使用で大きめ。吸収パッドの、皮膚に接触する面は、ふんわりとしたコットンで肌触りが良い。

装着すると、違和感も無く、心なしか下腹部がほんわかとするようにも感じられた。これは、綿効果だと思われる(暗示かもしれないが)。そのままバイト3時間。デスクワークであったこともあり、不快感はなかった。終業後トイレで確認すると、血液が吸収パッドの裏に浸透していたにのは、紙ナプに馴れた身には一瞬驚かれたが(注:紙ナプは漏れることはあっても浸透することは滅多に無い)、防水加工フォルダで食い止められているので、下着は汚れず安堵。使用済ナプは、布ナプサイトで指示されていた通り、ジップロックの中に畳んで持ち帰る。

持ち帰った使用済ナプは、入浴時に手洗いした。
洗面器に水を張り、しばらく浸け置きする。
湯船から眺めていると、浸け置き水が次第にほんのりと夕焼け色に染まってゆく。いくらか汚れが落ちたところで、血液の滲んだ部分を手洗いする。紅く染み込んだ部分に石鹸つけてなでなで洗う。そうしていると、成る程確かに、血を汚いと思わなくなったというひとの気持ちが解るような気がした。こうやって血液に親しく接してみると、なんだ、別段汚いものでも怖いものでもない。己の血とちゃんと向き合うのは何年ぶりのことか。況や、いつも見なかったことにするかのようにべりべりと剥がすやペーパーにくるんで投げ捨てていた経血である。石鹸泡立てふわふわ洗っているうちに、なにやら愉快な気分になって鼻歌。

感想:
デスクワーク3時間に使用した限りではまあまあ快適で、皮膚に与える負担や違和感も、紙ナプに較べてズット少ない。可愛いデザインで愉しい気分になれることも有難いし、経血に向かい合うことによって、(人によっては)経血に対する認識が変わることもありましょう。
難点は、出血量の多い日や激しく活動する日に使用するのは流石に難しそうな点。これは、実用に当たっては大きな問題。また、持ち帰りがヤッパリ不便。
出血終わりかけの頃などに使う分にはよいでしょう。星みっつ。
★★★☆☆。



2018年注)昨今、布ナプ推進派と怪しげな「スピリチュアル」との親和性が指摘されたり、布ナプ神話(布ナプ=身体に良い)のエビデンスの怪しさが指摘されてもおり、そんな今日から見ると上記の文章の一部はややロマン主義的布ナプ感に流されているように見えなくもないですが、まあ、このまま残しておきます。ちなみにその後、やはり洗濯の面倒さから布ナプはあまり使わなくなった。


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