序章 ―余は如何にして生理用品グルメとなりし乎






「生理用品」とはなんとも曖昧な呼称であるけれども、つまり、女性が月経時に経血を吸収するためなどに使用する道具 ―ナプキンとかタンポンとかの類― を主に指す。

多くの女子が「月経デビュー」したての小中学生時代、それらはなにやら後ろ暗く、秘密めいた道具であった。
それらにまつわる秘密は暗黙裡に女子だけに共有され、男子の目に触れないように、こっそりトイレに携帯してゆかねばならない。それが男子の目に触れてしまうことは、死にも値する恥辱。――大袈裟に言うと、そんな感じ。大袈裟に言うとね。だいたいの女子はデビュー時はタンポンでなくナプキンを使用するのが一般的だと思うが、そのナプキンを当てる際の、まるで「おもらし」の手当てをしているような感覚も、そうした恥ずかしさを助長していたと思う。女子同士の間でも、おおっぴらに生理用品話を繰り広げた記憶はあまり無い。

が、成長するにつれ、成長のせいか時代のせいなのか知らないが、生理用品をめぐる語らいがぼちぼちと解禁され始めた。
最初にそれについて友達と情報交換(?)をしたときのことは、よく覚えている。トイレから出てきたところを、或る女の子に、「ナプキン、何使ってる?」と問われ、使用中の銘柄を挙げた。「それって、いい?」と訊かれたので、「あんまり」と答えると、「そっかー、私は○○なんやけど、これもあんまりよくないねん」と言い、その子は去っていった。
それだけのことなのだが、(おお、こんなふうに生理用品について語らってもよいものなのか!)と蒙を啓かれた思いであった。
また、月経時の不快に困っているのは自分だけであるかのように感じていたので、ああこの人もそーなんや!と、これまで沈黙のうちに共有されてきた何かが初めて言語化されたような、何らかの連帯の可能性が芽生えたような、気がした。

更に大人になってからのことだが、コンビニでぼんやりしているところを知らないおばあさんに声をかけられた。
「うちの孫がメンスになってしもたんやけど、当てるもん、どれがええでっしゃろ。仰山ありすぎて分からしまへんねん」
とのことであった。
何故わたしが声をかけられたのかは謎である。単に手近に現役出血年齢らしき女がいたからか、或いは店員と間違われたのか。とかく、初めてやったらこっちよりこっちの方がええんとちがいますか・わたしはこれを使ってますよ、などと話しながら、かつておおっぴらに話題にしてはならないと思い込んで(思い込まされて)いたところのものについて、堂々と話ができるのは楽しいことであるなあ、と思ったのだった。

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ところで、わたしは現在は、珍しいものを見かけたらとりあえず使ってみたくなる生理用品グルメだが、もともとはあまり新しいものに手を出さないホシュ派であり、初経以来10年近く、同じ銘柄を使い続けていた。最初に買い与えられたのがそれだったからである。
それは正直いまいちだった。しかしそれしか知らなかったので、どれもこんなものなのだろうと思っていた。
ところが月経歴10年ほどのとき、たまたま買いにいった店にそれがなかったので、仕方なく違うものを買ってみたらこりゃアすばらしい! しまった!最初からこれを使っていれば……と過ぎ去った10年を悔やんだものである(註1)。それからはとりあえず、試せるものは試してみるという方針になった。それに、「来月はあれを使ってみよー」などと予定しておくと、憂鬱な出血日も少しは愉快に感じられるので。

その、グルメ遍歴(というほどでもないですが)の一部を、当サイトで紹介してみることとする。出血する人の出血ライフ、またもしかして、出血しない人の出血しないライフにも、僅かなりとも参考になればいいなあと思いつつ。


註1)とはいえ、わたしが「いまいち」だと感じていたその商品を、「いい」と言った人もあったし、逆に、その後わたしが愛用しているものを、快適でないという人もあるので、どれがよくてどれがよいかは、まったくひとそれぞれのようである。また、かつて「いまいち」だったその銘柄も、その後改良を重ねて当時より良くなっているかもしれない。よって此処に記すのは、あくまでその時点での・主観によるレポートになります。


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