かねてより、男性週刊誌が妖しい集会等に潜入するときはなぜ「潜入ッ」と小さな「ッ」がつくのだろう、と不思議に思っていました。そんなわけで、小誌記者が夜の石切に潜入ッ。みたいな。
石切は、東大阪市の町。奈良寄りの大阪である。奈良からならば、近鉄電車で生駒トンネルを抜ければ、そこが石切。
石切の噂はかねてよりいろんな人から聞いており、それによると、関西有数の独特な磁場を持つ町であるとのこと。
石切は、石切剣箭神社(通称石切さん)を中心とする門前町。そして、近鉄石切駅から石切神社へ向かう参道は商店街になっており、異様な熱気に溢れているのだという。
※参考:珍寺大道場さんによる紹介
そんな噂を聞きながら、一度機会があれば訪れてみたく思っていたところ、ちょうど奈良に用事ができた。そういえば石切が近くではないか、ちょっと寄ってみよう、ということで近鉄奈良線を大阪方面に向かったわれわれ。
しかし、生駒トンネルは長い。奈良から石切までは意外に時間がかかり、奈良を出たのが日の落ち始める頃、初秋の日暮れは早く、石切の駅を降り立った頃にはもう真っ暗になっていた。
鳥居をくぐり、坂道を降りてゆく。駅から神社までは延々と、下り坂になっているらしい。神社までの道は、噂に聞いていた通り、石切参道商店街という商店街になっている。
この商店街、普通の商店街とちょっと違うのは、占いの店や漢方薬の店など他の場所ではあまり見かけないお店がひしめいていること。但し、この日は既に営業時間は終わっていたようでどのお店もシャッターが閉ざされていた。
けれどもシャッターの前には、色とりどりの「占い」や「くすり」などの宣伝幟が揺れていて、昼間の活気がしのばれた。
珍しがりながら商店街をしばらく歩いてゆくと、商店の並びが途切れ、やや淋しいゾーンに入った。提灯の灯りだけがふやんふやんと揺れ、夜の見知らぬ門前町は若干心許ない。とりあえず先へ進むと、右手に突然「献牛舎」なる建物が現れた。中を覗いてみると、大きな牛の首、牛の首。
これまで農耕に黙々と働いてくれた牛達に感謝をこめ、飾りたてた牛を連れ立って神社へ参詣し、五穀豊穣を願う祭りです。かつては本物の牛でしたが、現在は交通事情等により、張子の牛が神馬を先頭に上之社まで行列し、時代絵巻が繰り広げられます。
(石切神社サイトより)
すっかり石切ワールドに圧倒されたわれわれ。さて十字路に出たわけであるが、そこからどう進めばよいか分からない。ともかく、真っ直ぐに坂を下りることにする。すると、そこにポスターが貼られていた。
石切神社秋季大祭ほう、そんなものが、と眺めると、なんと日付は今日である。われわれにしてはなんて幸運! ふらりと石切に立ち寄ったその日が石切さんの秋祭だとは。
教えられた道順に従いゆくと、石切神社の表参道らしきところに出た。先ほどまでの暗闇から突然打って変わってまばゆい灯りの中に投げ出されたわれわれ。
灯りの下、夜店が並び老若男女や子供や犬やヤンキーが集っている。地面にはびっしりと紙吹雪が敷き詰められているのが、さながら本物の雪のようで幻想的な風景であった。お祭だーお祭だー。鈴の音に恐怖していた頃がうそのようにはしゃぐ。ちなみにここの夜店は、「たまごせんべい」と「ミルクせんべい」がやたら多いことが特徴であった。
石切神社内をしばらく周遊し見学する。回廊式の造りになっているので、気が付くと同じところをぐるぐる回っていた。頭上にアーチ状の渡り廊下が架けられていたりと、どことなくエキゾチックな雰囲気である。
石切神社に祀られているのはニギハヤヒノミコト・ウマシマデノミコト。伝説上では神武二年創建ということだが、実際の創建年は火災で資料が焼けたため不明とのこと。とはいえ物部氏ゆかりの神社で、古い由緒を持つことは間違いないらしい。というと偉そうに聞こえるが、昭和以降は、デンボ治しの神様ともされて信仰されてきたというので、庶民に親しまれてきた神社なのだろう。ちなみに「デンボ」とは、関西弁でデキモノの意。
絵馬は、病気平癒や家内安全を願ったものが多かった。われわれも、折角来たのでお賽銭を入れお祈りをした。なんとなくここでは、あまりぎらぎらしたことを願う気にはなれないのが可笑しかった。
一応おみくじも引いてみる。期待に反し、全く普通の簡素なおみくじであった。おみくじ結果も全く平凡に「吉」であった。
各々おみくじをくくりつけ、神社を去ろうとしたところで、タイミングよくお神輿がやってきた。
以上のように、石切初訪問において幸運にも秋祭りに遭遇できたわけだが、次回は是非明るいうちに訪問し、参道の活気をたのしみ、数ある占い屋ので占われたいものだと思う。
ひとつ、夜に訪れて得をしたことは、夜景を観ることができたこと。石切駅は高台にあるため、石切さんまでの坂を下りる間遠くに望める夜景が、意外にもとても美しいのだった。
夜景の写真は上手く撮れなかったので、各々ご想像いただきたい。
(2008/10)