自宅から妹が出てきて立ち話。妹は、自作のセーラームーンの衣裳を着用している。
真っ青なセロハンで上半身を覆っているけど、それが下へずり下がり、胸が見えそうだ。子供のころのようにぺったんこの胸。
スカートがずれてナイロンのパンツも見えてしまってる。ぴちぴちのシャイニー・ピンク。あわてて、隠すように指示していると、妹の後ろをブラジル人の男が通った。男は露骨に妹の胸元を覗き込んでいる。
妹をこちらに引き寄せて守ろうとしたけれど、男は妹の背後にいるから、妹はいっこう気づかない。男は、露出した妹の肌にわざと自分の体を擦り付けるようにして通り過ぎていった。
わたしはしばらくぼーっと男の背中を見送ってきたが、数秒後、猛烈に腹が立ち始めた。このまま通り過ぎさせては、何もなかったことになってしまう。躊躇ったけれども、思い切って男を追いかけ背中を蹴り上げ、前のめりに倒れたところをぼこぼこにしてやった。
ところがこの事件によってネットが炎上し、男がブラジル人だったということで、外国人に対する差別的言辞が、ヤフーニュースのコメント欄にあふれている。「だから三国人は帰れっていうんだよ」etc。わたしはそんなつもりで男を蹴ったのではなかったのに。ただ、妹に痴漢行為を働いたことが許せなかっただけなのに。それが、民族主義に利用されている。しかも、2ちゃんねるを見ると、被害者である筈の妹まで中傷されている。ああ軽率なことをした、妹のためにも、やっぱりやめておけばよかったんじゃないか。
そんなこともあって、やっぱりベスは本国に送り還すしかないという話になったようだ。「仕方がないんだよ」と、めがねをかけた若い父親が、幼い娘二人に話している。海の見えるレストラン。娘二人は黙って頷き、三人は言葉少なにランチを口に運び続ける。
犬にアンケートを取り、いちばんしたいことが何であるかを知ろうとした。たとえば、「おいしいものをたらふく食べる」「航海に出て世界をめぐる」などいくつかの選択肢のうち、最も望むものを選ばせたのだ。でも犬に特に希望などあろうはずもないので、必然的にブラジルに還すしかない。やさしそうな若い父親は、自分を納得させようとするかのように、娘たちに語る。「一番好きな犬がいなくなったから、また別の犬を飼ったとしても、それらはみんな二番目以下。一番の座は、永遠に欠番なんだ」。
(2009.6月)